2026.04.17
東京スポーツ&整形外科クリニック(TSOC) 菅谷啓之院長×高村隆副院長インタビュー|肩肘障害の本質に迫る—「最後の砦」としての挑戦
治療室から現場までをつなぐ挑戦
今回は東京・北参道にある東京スポーツ&整形外科クリニック(以下、TSOC)を訪れ、院長の菅谷先生、理学療法士の高村先生にお話を伺いました。
TSOCは国内外のアスリートや一般患者から「最後の砦」と呼ばれる存在です。プロ野球やメジャーリーグの選手はもちろん、テニス、陸上競技、そして日常生活で肩や肘に悩む一般患者まで、多くの人が訪れています。
「治療で終わらせず、現場まで送り届ける。」
それが二人の共通した信念です。診察室での診断からリハビリ、トレーニング、そして現場での復帰まで、一気通貫で支える姿勢について語っていただきました。
治療理念と信念:医療とスポーツをつなぐ
—— 先生の治療哲学を教えていただけますか?
菅谷啓之医師
僕の原点は、若い頃に自分自身が野球で肩を痛めた経験にあります。当時は「肩は治せない」と言われる時代で、治療法すら確立されていませんでした。
90年代は本当に未開の分野で、手術もなく、リハビリと手術が分断されていたんです。だからこそ、自分で技術を学び、作り上げ、手術とリハビリを融合させる流れを作ろうと動き出しました。
高村隆理学療法士
僕自身の信念は「治療室から現場までをつなぐ」ことです。リハビリの世界はもともとADL(日常生活動作)回復が中心でした。でもスポーツリハは違う。選手が現場で戦える身体を取り戻さなければ意味がない。診察室や治療室で終わらせず、現場に戻り、フィードバックを受けて、それをまた治療に反映する。この循環こそが私のポリシーです。
肩肘障害の本質——「機能不全」から始まる連鎖

—— 肩肘障害の本質はどこにあるのでしょうか?
菅谷啓之医師
外傷と違い、肩や肘の障害は必ず機能不全から始まります。
肩甲骨や股関節の可動域不足、筋力のアンバランス、練習量の過多によるフォーム崩壊……こうした要因が積み重なり、最終的に肩や肘に過剰な負担がかかる。
だからこそ「手術だけ」「リハビリだけ」では治らないんです。身体機能を整え、維持することがなければ再発は必ず起こる。
—— 痛みが長期化する仕組みについても教えていただけますか?
菅谷啓之医師
一時的に休めば炎症は引きます。でも機能改善が伴わなければ再開後にまた痛む。いわゆる「休んで治った → 再開 → 再発」という悪循環です。
しかも「痛くないから大丈夫」と判断してしまう人が多い。実際には痛みが出る前にパフォーマンス低下という形で兆候が現れます。そこを指導者や選手自身が気づけるかどうかが非常に大切なんです。
理想の治療フロー:構造 ✕ 機能 ✕ 現場
—— 理想的な治療の流れはどうあるべきでしょうか?
菅谷啓之医師:
TSOCで大事にしているのは構造と機能を組み合わせた一気通貫の流れです。
- MRIなどで構造評価を行い、損傷を確認する。
- PTが機能評価を行い、柔軟性や筋力、動作連鎖を分析する。
- 課題に応じたトレーニングを実装する。
- トレーナーやコーチと現場でも連携し、実際の動作へ落とし込む。
- 復帰しても定期的に再評価を行い、パフォーマンスの波を小さく保つ。
復帰して終わりではありません。復帰直後はパフォーマンスが上がりますが、その後必ず下がる。その波を抑えるために、定期的なチェックとケアが欠かせないんです。
指導者へのメッセージ:痛みの有無ではなく「パフォーマンス」で見る
—— 指導者はどんな視点を持つべきでしょうか?
菅谷啓之医師
痛みの有無で判断してはいけません。「この子は本来もっとできるはずなのに伸び悩んでいる」=機能不全のサインです。
高村隆理学療法士
僕は常に「押すべき時と止めるべき時の見極め」が重要だと考えています。慎重すぎても選手は前に進めないし、無理をさせすぎても壊れてしまう。その線引きをするのが専門家の責任なんです。
マシン・運動療法の可能性とリスク

—— 近年、マシン活用や運動療法が注目されていますが、その背景とは?
高村隆理学療法士
ピラティスや動的ストレッチ、4D-Stretchのようなマシンは、確かに注目されています。マシンで行うことによる強みは、言葉では伝えづらい動きを体験させられることです。肩甲骨の寄せ方や肘の外旋を、短時間で身体に染み込ませられる。
- 正しい動きを「体験」で覚える
- 初球から安定したパフォーマンスを発揮できる
- 練習後のクールダウンで再発予防につながる



今後の展望:AIと予防医療の融合
—— 今後の展望についてお聞かせください。
高村隆理学療法士
これからはAIやITを活用した効率的な機能評価が必要です。選手50人を全員同じように診るのは不可能。だからセンサーやデータで「今日は柔軟性が落ちている」「可動域が狭くなっている」と自動判定できれば、本当に診るべき人を早期に抽出できます。
軽度な人はセルフエクササイズで対応し、危険な人だけを医師やPTが見る。そうした仕組みが理想ですね。
社会への提言と最後のメッセージ
—— 最後に、患者さんや社会に伝えたいことはありますか?
菅谷啓之医師
「運動したいのに痛みでできない」「やりたい動作が叶わない」——そんな時は我慢せずに相談してください。僕たちは“最後の砦”です。医師、理学療法士、トレーナーがチームで支えます。
そして社会に対しては、教育とスポーツを切り離し、専門的な指導者を育成することが必要です。次世代の大谷翔平を生むために、環境を根本から変えていく必要があります。